私は早稲田の学生だった十九歳のときに五木寛之氏に師事し、初期の論楽会のお手伝いをさせていただいた。二十代の頃は『日刊ゲンダイ』や『GORO』の連載の聞き書きをさせていただいた。面白半分の臨時増刊『いま、五木寛之』にはじまり、対談集や文庫や新書など、五木さんの本の編集も、私の大切な仕事のひとつであった。思えば、旅にもずいぶん連れて行っていただいた。
 そして、ふと気がつけば三十年以上の時間が経過している。
 私にとって唯一人の師である五木寛之氏の作品を、論じようなどとは思わない。それらは今も私にとって、精読すべき教科書、テキストブックでありつづけている。わからない箇所にぶつかると、ご本人に質問する。弟子の特権である。これを「面授」という。
 これから私が書こうと思うのは、繰り返すが地図だ。三十年の時間の流れのなかで私がつかむことのできた、五木寛之をいかに「読む」かという読書案内だ。いわば「五木寛之を読むヒント」である。
 五木寛之の名で呼ばれる広大で入り組んだ世界を旅することの果てに、たとえば「いまは人間が不安になることは、まったく自然なことです」という言葉に出会える感動を、ほんの少しでもいいからあなたと分かち合いたい、と願っています。(山川健一)

                            『五木寛之を読む』「はじめに」より抜粋







カバー版画「海をわたる花」五木玲子